オーディオ用ケーブルなどの端子に施される “金メッキ”。「電気信号を扱うツールに使われているのだから、金は電気を抜群に通すのだろう」と考える人もいるかもしれませんが、実は通電性において金はほかの金属に劣ります。ではなぜ、わざわざ金メッキ加工が用いられるのでしょうか? その答えには、金が持つ「錆びにくい」という究極の化学的特性が関係していました。今回は金に絶対的な価値が生まれる理由を、素材としての“性能”の観点から紐解きます。
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トップは銀で2位は銅……それでも「金」が選ばれる理由
ケーブルのプラグ端子に使われる金属メッキには、金メッキのほかにニッケルメッキやロジウムメッキといったさまざまな種類が存在します。特にオーディオ用のプラグには、金メッキまたはロジウムメッキが使用される傾向にあります。
しかし素材の電気伝導率の高さでいえば、もっとも性能が高いのは銀。続く2位は銅で、金はあくまで3位にとどまります。それでも、金がオーディオ用のケーブル端子に金が使われるのは、金の特長である腐食耐性の高さが理由。酸化による素材の劣化を避けやすく、長期にわたって安定した性能を維持できる点で高く評価されています。
ちなみに、オーディオ端子に使われる金属メッキの種類によって、音質にも違いが出るよう。なかでも金メッキを施した端子を使った場合の音は、「厚み」や「音域バランスのよさ」などが特徴として挙げられることもあります。実際に聴き比べることで、“素材としての金”の性能を体感できるかもしれません。
「王水」のみでしか溶解できない高い耐食性
耐食性の高さを理由に、素材としての支持を集めている金。酸素との結びつきによる錆び・変色を防ぎやすいという性質は、塩分の多い海中や宇宙空間のような厳しい環境でも素材の劣化を避けられます。
銀も比較的錆びにくい性質を持っていますが、硫化物によって変色してしまうのが欠点。ほか他にも、鉄は塩化物イオンに反応するため、海中や海辺では急速に錆びついてしまいます。
では、金を酸化させたり溶解したりすることは絶対にできないのかというと、必ずしも方法がないわけではありません。強力な酸化剤である「王水」があれば、金を溶かすことが可能だといわれています。
王水は、濃塩酸と濃硝酸を体積比3:1の割合で混ぜた特殊な溶液。そのため、一般的な日常生活の中で出会う機会はほとんどないかもしれませんが、過去には、王水を用いて実際に金を溶かしたとされるエピソードも存在します。
それは、第二次世界大戦中のこと。かつてノーベル賞を受賞した2人の科学者は、金メダルをナチス・ドイツに押収されるのを防ぐため、あえて王水の中にメダルを溶かして保管するというやり方を実践したのです。戦争が終わったあと、彼らは王水に溶け出した金をに再び溶液から還元することで、無事メダルを作り直すことができました。金の特異な性質を活かすことで金の価値を保った、歴史的な事例の一つだといえるでしょう。
また、耐食性に優れた金メッキは廃液からも回収が可能です。廃液から金を回収する仕組みとして特に注目を集めたのが、七生工業が開発した「ナナオ・リバース」(※)。これまでは、金の回収時に専用の“イオン交換樹脂”を焼却するプロセスを挟んでいたため、二酸化炭素の排出やダイオキシンの発生といった地球環境への悪影響がネックになっていました。
しかしナナオ・リバースの開発によって、イオン交換樹脂を燃やさない方法での回収が可能に。環境負荷に配慮しながら素材も無駄にしない、新たな貴金属利用のモデルを確立しています。
命に関わる部品には金が使われる?安定性が示す絶対的な信頼
金の錆びにくさを利用した製品は、オーディオケーブル以外にもたくさん存在します。たとえば、通信機器や電子機器などでは、さまざまなパーツに金メッキ処理を適用。信号の送受信の妨げとなる腐食が生じにくいことで、微細な接点でも接触不良を避けやすくなります。
医療用機器においても、金がもたらす安定性は重宝されています。カテーテルのX線造影マーカーやペースメーカーのパーツをはじめ、不具合が出ると命に関わり得る機器の安定的な動作は、金の耐食性の高さが支えています。
加えて、金は、“生体適合性”という観点からも医療現場に最適。人体への悪影響が少ない金属素材として高い信頼を得ています。金は金属アレルギーを起こしにくいとされていて、純金ともなればアレルギーのリスクはますます低下。金属アレルギーは汗や体液と反応した金属がイオン化して起きますが、金はイオン化しにくいというのが大きな特徴です。
では、銀を使用したパーツが人体に影響をおよぼすことはあるのでしょうか。銀歯は唾液によって金属がイオン化するリスクがあり、体内に蓄積することでアレルギーの発症や歯茎が黒ずむという症状も。銀歯にしたくないという場合、歯科医院などではセラミックなどの代替材料の使用が勧められています。
プラグやスイッチなどに銀が接点として使用されがちな理由として、銀が金と比べて安価という点があります。もちろん、銀は金よりも高い導電性持つ素材として重宝されてはいるものの、硫化による変色や金属アレルギーの問題から、“命に関わる部品”としての適正は、金に軍配が上がるようです。
金の化学的な性質は、資産としての「価値が減らない」理由
高い腐食耐性を活かし、さまざまな分野の製品に取り入れられている金。王水という極めて限定的なものによってしか変質させられないという特徴は、まさに安定資産としての金の価値を化学的に裏付けています。日常生活の中で金が王水に触れることはなく、手元にある純金が変色も含めて腐食してしまう可能性は、「ほぼゼロ」といっても過言ではありません。
現在に至るまで金の価値が変わらないのは、金が化学的に安定した性質で「変化しない=不変性」を備えているため。銀や銅に変色・錆のリスクがあることを考えれば、いかに金が優れた物質であるかがわかります。さらに、希少性・見た目の美しさ・富の象徴といった金が持つ要素も不変であるため、この先も金の価値が減る可能性は低いといえるでしょう。
命を守る体内の医療製品から、極限の環境下にあたる宇宙開発製品まで使用されている「金」という物質。科学技術が飛躍的な発展を遂げていく裏には、化学的・資産価値的にも不変な金の存在が常にあるといえるでしょう。
〈参考〉
めっき排水から金を回収 樹脂を燃やさずCO2排出削減
https://hub-conne.kanakei.jp/article/sji18qrfehzg