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「孫に金をあげたい」その手渡し、危険です。金の生前贈与と贈与税の落とし穴

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「孫に金をあげたい」その手渡し、危険です。金の生前贈与と贈与税の落とし穴

「かわいい孫の将来のために、毎年少しずつ金(ゴールド)を買っている」という祖父母の方は要注意です。ただ手渡すだけでは、将来税務署から「それは祖父母の財産(遺産)です」と認定され、多額の相続税がかかる可能性があります。贈与の証拠をどう残すべきか、公認会計士・税理士の辻哲弥氏が正しい「金の渡し方」を解説します。

孫のための「金」、その落とし穴とは

「自分の代で使い切るよりも、孫の将来に役立ててほしい」。そう考える祖父母の方は少なくありません。

特に近年は、老後資金の見通しが立ちはじめたことや、相続税に関する話題を耳にする機会が増えたこと、あるいは現金をそのまま残すことへの不安などから、「生前のうちに少しずつ資産を渡しておきたい」という意識が高まっています。

そのなかでも金は、価値がゼロになりにくく、長期的に見てインフレに強いという特性があります。実物資産としての安心感も相まって、「孫のための資産」として選ばれやすい存在といえるでしょう。

しかし、税理士として現場に立っていると、「よかれと思ってやったことが、結果的に裏目に出てしまった」というケースを数多く目にします。なぜ金の生前贈与が否認されやすいのか、そして想いをきちんと形にするにはなにが必要なのか。税務署の視点を交えて紐解いていきましょう。

金の生前贈与が「危険」といわれる理由

まず大前提として、金を孫に生前贈与すること自体はなんら違法ではありません。問題となるのは、「贈与したつもり」になっているケースが非常に多いという点です。

現金であれば、銀行振込の記録が残り、口座名義によって「誰の財産か」が明確です。そのため、贈与の事実を客観的に説明しやすい側面があります。

一方、金はどうでしょうか。現物そのものを手渡しできてしまううえ、そのやりとりは家庭内で完結してしまいます。また、誰が持っているかという管理状況も外からは見えにくいため、税務上の証拠としてはどうしても弱くなってしまうのです。

「孫のため」に買った金貨が相続財産とみなされた悲劇

実際にあった相続税調査の事例をご紹介しましょう。

祖父Aさんは、「孫が生まれた記念に、毎年1枚ずつ金貨を買っている。これは全部、将来孫に渡すものだ」と、家族の前でも何度も話していました。購入した金貨は孫の名前を書いた袋に分けられ、自宅のタンスに大切に保管されており、本人としては「もう孫のもの」という認識だったのです。

しかし、いざAさんの相続が発生し税務調査が入ると、以下の点が問題視されました。

  • 金貨の保管場所が祖父の自宅であったこと
  • 貸金庫などの契約も祖父名義であったこと
  • 贈与契約書が存在しなかったこと
  • 贈与税の申告も行われていなかったこと
  • 孫自身が管理・処分した実績がなかったこと

その結果、税務署は「形式的には孫のための金だが、実質的な管理・支配権は祖父にある」と判断。金貨をすべて祖父Aさんの相続財産に含めました。祖父の想いとは裏腹に、税務上は「なにも渡していない」のと同じ扱いを受けてしまったのです。

税務署が見ているのは「名義」ではなく「実態」

ここで重要なのは、税務署の考え方です。税務署は、「袋に誰の名前が書いてあるか」や「家族がどう思っているか」といった主観的な事情では判断しません。

見ているのは、「誰が管理しているか」「誰が自由に使える状態か」「誰の判断で処分できるか」という客観的な実態です。つまり、「実質的にコントロールしている人=その財産の持ち主」という考え方が適用されます。

たとえ「孫のもの」と言葉で伝えていても、金を自宅で保管し、「まだ渡していないけど、そのうち渡す」という状態であれば、税務上は「まだ自分の財産」と判断されるリスクが極めて高いといわざるを得ません。

贈与を成立させる「2つの基本条件」

では、税務上、贈与として認められるためにはなにが必要なのでしょうか。最低限、次の2つが揃っている必要があります。

1.贈与の合意があること

贈与は一方的な行為ではなく、「贈る」「受け取る」という双方の合意が必要です。

2.実質的な支配が受贈者に移っていること

名義だけでなく、「管理」「保管」「処分」について、受贈者側がコントロールできる状態であることが求められます。

このどちらかが欠けると、「贈与は成立していない」と判断されやすくなります。

「あげたつもり」を防ぐ贈与契約書の重要性

そこで重要になるのが「贈与契約書」です。これは、

  • 贈与の事実
  • 贈与の時期
  • 贈与の内容

を客観的に示すための、基本的な証拠となります。

金の贈与契約書を作成する際は、以下の項目を具体的に記載しましょう。

  • 金の種類(インゴット、金貨など)
  • 数量・重量
  • 贈与日

特に注意したいのは、「まとめてあとから作らない」という点です。過去にさかのぼって契約書を作成しても、信憑性を疑われる原因になります。毎年少しずつ贈与するのであれば、その都度作成することが、税務上の信頼性を高めます。

未成年の孫に贈与する場合の落とし穴

孫が未成年の場合は、さらに注意が必要です。未成年者は法律上、単独で有効な契約を結べません。そのため、親権者(通常は孫の親)の関与が不可欠となります。

実務上は、贈与契約書に親権者が連署するほか、贈与の内容を親権者が把握し、管理方法についても関与している実態が必要です。親権者がまったく関与していないと、「形式だけの贈与」と判断されるリスクが高まるため、注意が必要です。

また、保管方法も判断を左右する重要な要素です。祖父母名義の貸金庫や自宅金庫に入れておくと、どうしても管理者は祖父母であるとみなされがちです。一方で、孫(または親権者)名義の貸金庫に移す、あるいは管理ルールを明確にして保管するなど、「実質的な支配が移った」と説明できる状態を作ることが大切です。

「想い」を守るために、あえて申告するという選択肢

金を贈与した場合、贈与税の問題も避けて通れません。年間110万円までの基礎控除の範囲内であれば贈与税はかかりませんが、それでも「贈与があった」という事実を明確にしておくのも一つの手です。場合によっては、あえて贈与税の申告を行ったり、将来の相続対策として履歴を残したりといった判断が有効になることもあります。

祖父母の「孫を想う気持ち」は尊いものですが、税務の世界では想いだけでは通用しません。その方法を誤ると、相続税が余計にかかり、家族に負担を残し、想いが十分に伝わらないといった結果につながることも。必要なのは、証拠と手続き、そして管理の実態です。これらを整えることで初めて、その金は「孫のために残した資産」として守られるのです。

金を「買う」ことよりも大切なのは、「どう渡し、どう管理し、どう証拠を残すか」。少しの準備と正しい知識が、大切な想いと資産を確実に次世代へつなぐ架け橋となるでしょう。

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