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宇宙の小惑星に眠る「1,000京ドル」の金…地球に持ち帰ったら金価格は大暴落する?

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宇宙の小惑星に眠る「1,000京ドル」の金…地球に持ち帰ったら金価格は大暴落する?

人類がこれまでに採掘してきた金は約22万トン。すべてを集めても、一辺約22.6mの立方体に収まるほどしかありません(※1)。ところが宇宙に目を向けると、桁違いの金属を含むとみられる天体があります。火星と木星のあいだに広がる小惑星「16 Psyche(プシケ)」です。その価値を市場価格に当てはめると「1,000京ドル」にもなる――過去にはそんな試算が話題になったことも(※2)。ではもし将来、宇宙から大量の貴金属を地球に持ち帰れるようになったら、いま私たちが持っている金の価値は暴落するのでしょうか。検証してみます。

推定価値は1,000京ドル?「黄金の小惑星」プシケの正体

NASAの探査機「Psyche(サイキ)」が目指しているのは、火星と木星のあいだの小惑星帯に位置する「16 Psyche(プシケ)」です。NASAによると、プシケは最も幅の広い部分で約280km。現在の観測では、岩石と金属が混じった天体で、金属が体積の30~60%を占める可能性があると考えられています(※3)。

注目されているのは、その膨大な金属量です。過去には、プシケに含まれるとされる金属を当時の市場価格に当てはめると、約1,000京ドルに相当するという試算も報じられ、話題を呼びました(※2)。

ただし、この試算額には注意が必要です。プシケに「1,000京ドル分の金やプラチナ」が存在するとNASAが確認したわけではないからです。NASAは、プシケを岩石と金属の混合物とみており、鉄を多く含む天体である可能性を指摘しています。詳しい組成を明らかにすること自体が、探査の目的の一つです(※3)。

2023年10月に打ち上げられた探査機は、2026年5月に火星でのスイングバイに成功。現在はプシケへ向かっており、到着は2029年を予定しています(※4)。

つまり、「1,000京ドルの宝の山」というより、その正体をこれから調べに行く段階なのです。

宇宙から地球へ持ち帰るコスト vs. 金の市場価格

仮に将来、プシケから金やプラチナなどを採掘できたとしても、それだけで巨額の利益が生まれるわけではありません。

まず立ちはだかるのが、採掘と輸送のコストです。NASAのPsycheミッションでさえ、開発から打ち上げ、運用までの費用は約12億ドル。しかも今回のミッションは、プシケを周回しながら科学データを収集し、その組成などを調べることが目的です。金属を採掘して地球へ運ぶミッションではありません(※5)。

実際に採掘となれば、宇宙空間で鉱石を掘り、必要な金属を選別・精製し、それを安全に地球まで運ぶ技術が必要です。

経済性についての研究もあります。学術誌『Acta Astronautica』に掲載された研究では、小惑星からプラチナを地球へ持ち帰るケースについて、技術的なコストだけでなく、供給増加に対する市場価格の変化が採算性を大きく左右すると指摘しています(※6)。

地球に届くまでに膨大な費用がかかるなら、たとえ宇宙に大量の金が存在していても、「安価な金」になるとは考えにくいでしょう。

大量の金が届けば「希少性」は失われる?

もう一つ重要なのが、金そのものの価格です。

World Gold Councilによると、人類がこれまでに採掘した金は2026年第2四半期末時点で推計約22万2,600トン。すべてを集めると、一辺約22.6mの立方体に収まります(※1)。金が高い価値を持つ理由の一つは、この供給量の限られた「希少性」にあります。

では、仮に宇宙から何十万トン、何百万トンという金が地球へ運ばれてきたらどうなるでしょうか。

単純に現在の金価格を掛け合わせて、「〇兆ドルの価値がある」と計算することはできません。供給が一気に増えれば、価格そのものが下がる可能性があるからです。

プシケの「1,000京ドル」という試算も同様の前提に基づいています。その大量の金属を実際に市場へ持ち込めば、現在と同じ価格で売れるとは考えにくいでしょう。

つまり、宇宙資源には一見すると天文学的な価値があっても、すべてを現金化できるわけではないのです。

当面は持ち帰れないからこそ、地球上のゴールドは希少

それでは、宇宙採掘によって近い将来、金価格が暴落することを心配する必要はあるのでしょうか。少なくとも現時点では、その可能性を現実的な投資リスクとして考える段階ではなさそうです。

前述のとおり、NASAの探査機がプシケへ到着するのは2029年。そこで初めて、詳細な組成の調査が始まります。今回のミッションにも採掘や資源の持ち帰りは含まれていません(※3)(※5)。その先にある、採掘、精製、輸送といったハードルを越えるには、さらなる技術革新と長い年月が必要です。

一方、地球上の金は限られています。World Gold Councilによると、2025年の鉱山生産量は3,672トン。これまで採掘された約22万トンというストックに対し、毎年新たに供給される量はわずか1.6%程度にすぎません(※1)。

宇宙には、地球とは比較にならないほど大量の資源が眠っている可能性があります。しかし「存在する」ことと、「経済的に利用できる」ことのあいだには大きな隔たりが存在します。

いつの日か宇宙採掘が実用化すれば、金や貴金属の「希少性」という前提そのものが変わるかもしれません。ただ、少なくとも現在のゴールドの価値を支えているのは、宇宙になにがあるかではなく、私たちが実際に利用できる金が限られているという揺るぎない現実なのです。

 

〈参考〉

※1 World Gold Council「How Much Gold Has Been Mined?」
https://www.gold.org/goldhub/data/how-much-gold

 

※2 CBS News「NASA plans mission to asteroid that may hold treasure trove of minerals」
https://www.cbsnews.com/news/nasa-mission-16-psyche-asteroid-metals-worth-ten-thousand-quadrillion-dollars/

 

※3 NASA「Psyche Mission Overview」

Psyche Mission Overview

 

※4 NASA「NASA’s Psyche Mission Aces Mars Flyby, Targets Metal-Rich Asteroid」

NASA’s Psyche Mission Aces Mars Flyby, Targets Metal-Rich Asteroid

 

※5 NASA Jet Propulsion Laboratory「Psyche Quick Facts」
https://www.jpl.nasa.gov/press-kits/psyche/quick-facts/

 

※6 Andreas M. Hein, Robert Matheson, Dan Fries「A techno-economic analysis of asteroid mining」Acta Astronautica

https://doi.org/10.1016/j.actaastro.2019.05.009

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